MITと協働 AI活用でイノベーションを追求 | 武田薬品
MITと協働 AI活用でイノベーションを追求
MITシニアリサーチサイエンティストのジム・グラスさん
「私の専門分野ではすでに足跡を残しています。今回の件は自分の視野を広げ、世界に貢献できるチャンスになると思いました」と、グラスさんは述べています。「しかも、自分の知らない分野の専門家とコラボレーションできるなんて、とても魅力的でした」
このプロジェクトは、バイオ製薬企業とアカデミアが医療における人工知能(AI)の活用方法を模索する独創的なコラボレーションプログラム「MIT-Takedaプログラム」の一環です。タケダのStatistical and Quantitative Sciencesグループで統計のシニアディレクターを務めるブライアン・トレイシーは、このプログラムはMITとタケダにとって貴重な学びの機会だったと述べています。
「言語研究の最先端を走るグラスさんのような人たちと一緒にプロジェクトに取り組んだことで、主流となっている新しい手法や考え方を学べました。『どこからこの問題に手を付けるべきでしょうか』と聞けるのは、本当にありがたいことでした」
4年間のプログラムが終了を迎える今、その成果を見れば、コラボレーションが持つ大きな力、そして創薬・開発の課題解決でAIが持つ大きな可能性がよくわかります。
「コラボレーションの精神」
(左から)タケダ Data Sciences Institute ヘッドのアン・へザリントン、MIT工学部プログラムマネジャーのティア・ジューレオさん、タケダ Data Sciences Institute Strategy and Business Operations シニアプログラムマネジャーのヤリッツァ・ペーニャ、タケダ ShinrAI Center for AI/ML データ&アナリティクスディレクターのティム・スミス、MIT工学部学部長アナンサ・チャンドラカサンさん
MIT-Takedaプログラムは、研究から臨床開発、製造に至るまで、創薬パイプラインの全体に広がる22のプロジェクトで構成されています。タケダのData Sciences Instituteのヘッドで、研究開発のチーフデータ&テクノロジーオフィサーも務めるアン・ヘザリントンは、プログラムの発足時にはすでに明確なゴールがあったと述べています。
「MITの知恵を借りるべく、創薬で最も難しい問題にフォーカスしました」と、アンは振り返ります。
共同プログラムのエグゼクティブディレクターで、タケダのStatistical and Quantitative Sciencesのヘッドでもあるサイモン・デービスは、企画案を集めるために地道な草の根活動に取り組んできたと話します。
「現場で本当に困っていることを洗い出すよう、ともに働く仲間にお願いしていきました。そしてMITには、集まったプロジェクトをそのまま出すのではなく、彼らが最も興味を持ってくれそうなプロジェクトを厳選した上で提示しました。その結果、うまくマッチングしました」
アンと一緒にプログラム立ち上げに携わったのは、MITのチーフイノベーション&ストラテジーオフィサーで、工学部学部長と電気工学およびコンピュータサイエンスのVannevar Bush Professorを務めるアナンサ・チャンドラカサンさんです。MITの研究者は関心のあるトピックを選び、その上でタケダの研究者と一緒にプロジェクトの企画書を練り上げていったとアナンサさんは振り返ります。
「そこにはまさしくコラボレーションの精神がありました」と、同氏は言います。「MITの研究者は進んで自らのツールや専門知識を持ち寄り、問題の解決に取り組んでいきました。タケダの研究者は専門分野のガイダンスや資料だけでなく、スタッフやデータ、機器などを活用する機会も提供してくれました」
「これらのプロジェクトを通じて多くを経験し、技術がもたらす価値と影響について考えさせられました。こうした経験は、AIに関する幅広い戦略の策定に役立ち、スタートアップ企業や学術機関との新たなコラボレーション方法を考える上でも参考になります。今後、この分野でイノベーションの方法を模索するための土台を築けました」
タケダStatistical and Quantitative Sciencesヘッド
サイモン・デービス
「従来とは根本的に異なるアプローチ」から生まれる画期的な成果
MIT-Takedaプログラムから生まれた数々のソリューションには、業界のバイオ製薬プロセスを変化させる潜在力があります。すでに16の学術発表を行い、特許も一つ取得しています。また、新たな視点から問題に取り組むきっかけになったという点でも、両者にとって価値がありました。
例えば、特許を取得した技術は、製造過程で非侵襲的に小分子をモニタリングする方法に取り組んだプロジェクトから生まれたものでした。タケダの標準的な製造プロセスでは、一定間隔で機械を停止させてサンプルを抜き出すという方法をとっており、時間もコストもかかっていました。しかし、専門性の異なる人たちが集まったことで、革新的なソリューションを生み出すことができたと、MITの機械工学学科の画像処理エキスパートであるジョージ・バルバスタシスさんは述べています。
「私たちの前には、解決すべきリアルな問題がありました。最善の解決方法は、根本的に異なるアプローチをとることにありました」と、同氏は語ります。「MITのメンバーだけなら、粒子一つ一つを画像化し、それから計算していたことでしょう。しかし、今回、私たちはまったく反対のアプローチを取り、物理学にこの計算をさせるという光学技術を思いついたのです。とても突飛で面白いアイディアでした」
チームは現在も研究を続け、この技術をタケダの製造施設で実際に活用するために調整を行っています。これを導入できれば、タケダの品質基準を維持しつつ、製造に要する時間を削減できます。
(左から)タケダのチョンジン(ジェーン)・リン、MITのハマード・アダムさん、タケダのジャンチャン・リン
「臨床試験のモニタリングを行う上で、固定観念が打ち破られました」と、ジャンチャンは話します。「従来はモニタリングに多くの時間を取られていました。しかし、機械学習を活用することで、リアルタイムのチェックとモニタリングが可能になれば、予測モデリングの正確性向上に注力できるようになるでしょう。以前は決してできなかったことであり、この分野に変革的な考え方をもたらしています」
医療への長期的な貢献
公式のプログラムは終了を迎えつつありますが、小分子の画像化に取り組むジョージさんの研究を含め、複数のプロジェクトが現在継続中です。また、このプログラムのサブセットであるMIT-Takedaフェロープログラムも続きます。これは、MITの大学院生による医療およびAI分野での研究をタケダが支援するプログラムです。
サイモンは、一連のプログラムで実現したイノベーションが、240年以上にわたりタケダが受け継いできた価値観と合致すると振り返ります。そして、こうした価値観やイノベーションを起こそうとする姿勢は、今後も私たちの成長を後押ししてくれるものと語ります。
「これらのプロジェクトを通じて多くを経験し、技術がもたらす価値と影響について考えさせられました。こうした経験は、AIに関する幅広い戦略の策定に役立ち、スタートアップ企業や学術機関との新たなコラボレーション方法を考える上でも参考になります。今後、この分野でイノベーションの方法を模索するための土台を築けました」
MITにとっては、リアルデータを使って実際の問題を解決しようとしたことで、医療とAIが交わる分野での研究に長期的なプラスの効果があったと、アナンサさんは述べています。
「MIT-Takedaプログラムを見れば、データサイエンティストが持つ専門性と、医療と創薬のエキスパートが力を合わせればどのようなことができるかがよく分かります」と、同氏は言います。「医療の問題にAIや機械学習を活用することで、今後どのような画期的な解決策が生まれるのか、それを考えると期待感で胸がいっぱいになります」