顧みられない熱帯病に統合的アプローチで迫る | 武田薬品

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顧みられない熱帯病に統合的アプローチで迫る

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2025年1月6日

「子どもの頃に疥癬に感染し、とても痒かったのをよく覚えています。症状が出たところを掻いてしまうので、腕も脚も腫れていきました。夜もなかなか眠れず、学校の授業に集中することもできませんでした」

そう語ったのは、南太平洋の島国バヌアツで暮らす一人のお年寄りです。この国の子どもたちに、疥癬やフランベジア、リンパ管フィラリア症といった顧みられない熱帯病(NTD)が大きな影響を与えていることを語っています。

NTDは、ウイルスや細菌、寄生虫、菌類、毒素など、さまざまな病原菌によって引き起こされる各種の症状の総称です。しかし、その問題は健康上だけに留まらず、貧困の連鎖の大きな要因にもなっています。こうした疾患は未治療のまま放置されることもあるため、慢性的な痛みや身体障害、社会的な差別につながることがあります。勉強や仕事に支障を来すことがあるため、地域社会はその潜在力を十分に発揮できない可能性があります1

世界保健機関(WHO)Go to https://www.who.int/health-topics/neglected-tropical-diseases#tab=tab_1の推計によると、NTDに罹患している人は世界全体で10億人以上に及び、予防や治療などでNTDに対する介入を必要とする人は16億人近くにのぼっています。

タケダは2020年に、グローバルCSRプログラムの一環としてBridges to DevelopmentGo to https://bridgestodevelopment.org/とパートナーシップを結び、PINE(太平洋地域統合NTD制圧)プロジェクトの立ち上げを支援しました。WHOやKirby Institute、各国の保健当局が共同で実施するこのプロジェクトは、バヌアツとパプアニューギニアの、支援の届いていない地域が抱えるNTDの課題に取り組むことを目的としています。

Bridges to Developmentのマネージングパートナーであるジュリー・ジェイコブソン博士は、このプロジェクトのアプローチを、重要なイノベーションと評しています。集団薬剤投与のメリットとリスクの慎重な評価、地域社会の支援、医療従事者の能力強化といった戦略を組み合わせることで、地域が抱える保健インフラと医療アクセスの課題を克服しようとしているからです。

「PINEプロジェクトは、さまざまな介入方法を一つの取り組みに統合することで、複数のNTDに同時に対応できるように設計されています」と、ジェイコブソン博士は述べます。「そのため、疥癬やフランベジア、リンパ管フィラリア症といった疾患のスクリーニングと治療に同時に取り組むことができます。これは、遠隔地にあるこうした地域へのインパクトを最大化し、地域の保健システム全体を強化することにもつながります」

バヌアツでのNTDの経験を語るジュリー・ジェイコブソンさん

感染サイクルを断ち切るため、すべての地域を対象に、細心の注意を払った上で抗寄生虫薬の集団投与も実施されています。この4年間で、この集団投与による治療を受けた人は41万人以上にのぼります。同時に、地域の医療従事者に対しては、新しいデジタルツールやトレーニングが提供され、仲間同士でサポートし合えるネットワークも構築されました。現在では、医療従事者が適切に診断や治療を行えるようになったことで、プログラムの成果は長期的に続く見込みです。

PINEプロジェクトのメンバーであり、バヌアツで20年以上にわたり公衆衛生に取り組んできたジョージ・タレオさんは、プロジェクトにより状況が大きく変わってきていると感じています。

「PINEプロジェクトが始まる前は、疾患のある子どもたちは学校に行けないこともありました。親も、一日かけて子どもを医療機関へ連れて行かなければなりませんでした。しかし、薬を投与してもらったおかげで、家庭も地域も以前より健康になりました」

PINEプロジェクトによる変化を話すジョージ・タレオさん

ジェイコブソン博士も同様の見解を持っています。彼女は、統合的なプロジェクトを通じた地域社会への介入により、保健システムが強化され、それがまた地域社会のさらなる発展につながるという、良い循環を生み出せていると語りました。

「看護師からは、以前のように大勢の患者さんに対応する必要がなくなったことで、遅れている母子健康への対応など、他のことに集中できる時間が増えたという話を聞いています」と、ジェイコブソン博士は述べています。「看護師が仕事に集中できる時間が増えたことは、地域社会にとって大きなメリットです」

Bridges to Developmentとのパートナーシップは、2016年から続く34の長期パートナーシップのうちの一つにすぎません。大薮 貴子 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ&サステナビリティ オフィサーは、「PINEなどのプログラムへの支援は、240年以上にわたってタケダを導いてきた、患者さんを第一に考え、社会への貢献に注力するという私たちの価値観を体現したものに他なりません。現地の地域社会と力を合わせ、革新的なソリューションを活用していくことで、私たちはNTDとの闘いに長期的な解決策をもたらす一助となっています」と話します。

ジェイコブソン博士はPINEプロジェクトの功績について、地域社会中心の統合的なヘルスケアモデルとなり得るものと振り返ります。他の地域でもこれを踏襲することで、継続的にNTDに対抗していける可能性があると指摘します。タレオさんは、地域社会、医療従事者、グローバルパートナーが力を合わせて顧みられない健康上の課題に取り組んでいくことで、どれほどのことを成し遂げられるのかを、このプロジェクトが示していると考えています。

「必要な治療を受けることで治っていく患者さんたちを私は見てきました。それは本当に心を打つ光景でした」

Bridges to Developmentとのパートナーシップを通じた、顧みられない熱帯病への取り組み


Bridges to Developmentとのパートナーシップを通じた、顧みられない熱帯病への取り組み

疥癬は、極めて微細なダニが皮膚に寄生することによる皮膚疾患で、痒みや発疹といった特徴を持ちます。そこから細菌性皮膚感染症になり、膿瘍や敗血症、重篤な感染症へと発展し、リウマチ性心疾患など長期的な疾患につながることもあります。また、痒みや発疹により睡眠が妨げられることで生活の質が落ちたり、社会的な差別を受けたり、学校や仕事に行けなくなったりすることもあります2

フランベジアは、乳頭腫(非がん性のしこり)や潰瘍を特徴とする、慢性の細菌性皮膚感染症です。主な感染者は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、太平洋諸島の暖かく湿度の高い熱帯林地域の貧しい地域で暮らす15歳未満の子どもです。感染者の見た目を損ない衰弱させる感染症で、皮膚、骨、軟骨を侵します3

リンパ管フィラリア症は、痛みを伴い、感染者の見た目を大きく損なう疾患で、一般的には象皮病として知られています。これに感染した蚊に刺されることで、線虫(回虫)に分類される寄生虫が人に移り、感染します。感染が子どもの頃であっても、大人になってから手足の腫れなどの目に見える症状が出ることもあり、一次的または恒久的な障害を引き起こします。流行国では、社会および経済に大きな影響が及んでいます4