カザフスタンの子供に絵本で伝える血友病 | 武田薬品
カザフスタンの子供に絵本で伝える血友病
本記事は、実際の患者さんの体験談を紹介しています。特定の患者さんの体験を紹介したものであり、典型的な患者さんの体験を紹介するものではありません。気になる症状や医学的な懸念がある場合、また、適切な診断と治療を受けるためには適切な医療機関を受診ください。
アクザン・イェリキジジさんが第一子を出産したとき、医師はすぐに赤ちゃんの皮膚が異常に赤いことに気がつきました。さまざまな検査の結果、赤ちゃんは血友病と診断されました。血液が適切に凝固しない、まれな遺伝性の出血性疾患です。
その診断からまもなく、アクザンさんはリュドミーラ・ シャガブティノバさんと出会いました。リュドミーラさんは3人目の男の子を出産したばかりで、その子も生後間もなく血友病と診断されていました。
リュドミーラ・ シャガブティノバさんと子ども
「当時はインターネットもありませんでした」とリュドミーラさんは振り返ります。「血友病について私が知っていたことといえば、20世紀初頭のロシアの皇太子アレクセイが、血友病で寝たきりの生活を送らなければならなかったという話だけでした1」
しかし、血友病の治療はその時代よりも進化しています。カザフスタンに暮らすアクザンさんもリュドミーラさんも、子どもに生後8カ月から治療を受けさせることができました。子どもたちは現在、活発なティーンエイジャーに育っています。
カザフスタンにあるタケダのメディカルチームは、血友病を啓発し、アクザンさんやリュドミーラさんのような母親が、子どもが血友病と診断されても必要以上に恐れなくても済むようにしたいと考えていました。
そこで、私たちはカザフスタン血友病協会と協力し、血友病患者さんの暮らしがどのようなものかを伝える絵本を出版することにしました。この絵本は、 アクザンさんとリュドミーラさんの家族の実体験に基づいて作られ、『アリとその世界』(Ali and the World Within)というタイトルが付けられました。
ユーラシア、中東、アフリカ担当のコミュニケーション・渉外リーダーであるネバル・アパイデンは、この絵本の中には、患者さんの暮らしを豊かにするために革新性を追求してきたタケダの歴史が息づいていると述べます。
「血友病とともに生きる子どもたちの目から見て、この病気が自然なものに映るような絵本を作りたいと思いました」とネバルは言います。「この絵本には、架空の部分もありますが、この病気とともに生きることがどのようなことかがわかる実話の部分もあります。また、血友病患者さんとその家族に対して、彼らは一人じゃないというメッセージを伝える内容になっています」
冒険譚として書かれた『アリとその世界』では、主人公の男の子(血友病の発症は女性より男性の方が一般的です2)が謎に満ちた不思議な国を探検していきます。カザフスタン血友病協会はこの絵本を、カザフスタン全土の患者さんに向けて2,000部発行しました。
血友病の正しい認識を広める
ニコライ・グラディックさん
カザフスタンのタケダで渉外および患者さん支援を担当するマネージャーであるアセム・ジュヌソバは、カザフスタンで血友病の啓発は極めて重要と指摘します。
「多くの人はこの疾患について知識がありません。血友病は感染症の一種で、他の人にうつるかもしれないと考えている人もいます。このように、この疾患は社会的に多くの誤解を受けています」
こうした誤解は問題です。血友病を適切に治療するには早期診断が重要にもかかわらず、こうした誤解により診断が遅れてしまう可能性があるからです。
ニコライ・グラディックさんのストーリーは、治療が遅れた場合に生じる可能性を教えてくれます。
カザフスタン東部の小さな村に生まれたニコライさんは、1歳のときに血友病と診断されました。しかし、その地域では治療選択肢がなく、ニコライさんは18歳まで治療を受けられませんでした。
「重篤な関節障害が生じ、人工膝関節置換術を受けました3」とニコライさんは言います。「人々の目には触れにくいこの疾患を、社会の人々が理解する上で、この本はとても貴重と思います」
「あなたはスーパーヒーロー」
アクザンさん一家
患者さんとその家族の体験はそれぞれに異なりますが、ニコライさんが子どもの頃と比べて多くのことが変わりました。アクザンさんの息子は多くの点で典型的なティーンエイジャーです。演劇部に所属し、マーケティングを学んでいます。しかし、この疾患に苦しむことも少なくないとアクザンさんは言います。
「『他の子にこんな病気はないのに、どうして僕だけがみんなと違うの?』と息子に聞かれたこともあります。そのとき私は『あなたはスーパーヒーローなの。この経験があなたを強くしてくれたんだから。そのことを忘れないでね』と答えました」
アクザンさんは、「アリとその世界」から力強いメッセージを受け取り、この新しい視点を得たといいます。また、この絵本は、アクザンさん一家がこれまでの道のりを受け入れる助けになりました。絵本には、息子が血友病と診断されたあと、アクザンさんと夫が2人で、キッチンで座って過ごしたときのことが描かれています。この部分を読んで、夫は涙を流したとアクザンさんは振り返ります。
リュドミーラさんはこの絵本について、血友病の体験が非常に正確に描かれていることに感銘を受けたと語っています。また、血友病と診断されたからといって、寝たきりになるわけではないことを他の家族に分かってもらえたことも嬉しいと述べています。
「血友病の10代の息子を持つ、あるお母さんと先日会いました。彼女は、この絵本を読んだことで、不可能なことは何もないし、息子は人生を積極的に楽しめると思えるようになったと話してくれました」とリュドミーラさんは振り返り、次のように続けました。「その息子さんは現在、イタリア留学を計画しているそうです」
Hemophilia in the Romanov Family. National Bleeding Disorders Foundation. https://www.bleeding.org/news/hemophilia-in-the-romanov-family Published Mar 29, 2022.
National Library of Medicine. Overview: Hemophilia. Last updated March 16, 2023.
第4回 血友病と関節症. 日本血液製剤機構https://www.jbpo.or.jp/crossheart/magazin/closeup-h/04/ Published 2018 vol.57