出産直後の母親が直面した希少疾患cTTP | 武田薬品
出産直後の母親が直面した希少疾患cTTP
本記事は、実際の患者さんの体験談を紹介しています。特定の患者さんの体験を紹介したものであり、典型的な患者さんの体験を紹介するものではありません。気になる症状や医学的な懸念がある場合、また、適切な診断と治療を受けるためには適切な医療機関を受診ください。
出産直後にcTTPと診断されたエイミーさん(写真中央)
エイミーさんが運転する車の中には、穏やかな空気が流れていました。後部座席のチャイルドシートで、すやすやと眠るシャルロッテちゃんを見れば、それがよく分かります。しかし、シャルロッテちゃんが早産で生まれた6カ月前の当時、エイミーさんは、今とは真逆の事態に直面していました。
エイミーさんは、娘のシャルロッテちゃんを起こさないよう車の外に出て座り、当時の日々を振り返りました。そして、途切れ途切れの言葉で、自身の身体に不調を感じた時のことを語ってくれました。
「妊娠9カ月目なのだから、不調は当たり前のことなのかと考えていました。初めての妊娠だったし、この時期はそんなものだろうと思ったのです」
しかし、エイミーさんはある日の早朝、体調に異変を感じました。テキサスで集中治療室(ICU)の看護師を務めるエイミーさんは職業的直感で、何かがおかしいと感じました。そして、夫のマークさんと一緒に病院へ急ぎました。
「うまく喋ることができずに、伝えたいことを言葉で表現できませんでした。夫に『これは普通じゃない。本当におかしい』と言いたかったのですが、言葉になりませんでした」
エイミーさんはそのまま入院し、クリスマスイブの午前12時44分にシャルロッテちゃんを出産しました。元気な赤ちゃんでした。しかし、エイミーさんの入院生活はそこからが本番でした。
それから1週間、エイミーさんの担当チームは、彼女の症状の原因を突き止めようと、あらゆる努力をしました。発作や慢性的な疾患の可能性は除外できましたが、それでも体調の異変は続き、チームは頭を悩ませました。
「看護師である私には、医師たちが困惑していることがはっきりと分かりました」と、エイミーさんは言います。「死ぬかもしれない。娘が、私を母親と認識してくれるチャンスはないのかもしれないと思い、怖くなりました」
しかし、チームはついに原因を突き止めました。
エイミーさんは、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)だったのです。cTTPはADAMTS13酵素が欠乏し微小血管に血栓が生じる希少疾患で、その発見は100年も前に遡ります1,2,3 。非常に希少なため、医療従事者のエイミーさんでさえも、その病名を聞いたことがありませんでした。
「100万人あたり数人しかかからない病気※になるなんて、誰も想像しませんよね。簡単には信じられないと思います」
エイミー
※cTTPの正確な有病率は不明ですが、100万人あたり0.5~2例と推定されています4。
人々に尽くすという目標に向かって
cTTPには、脳卒中や心血管疾患など、急性症状と慢性症状の両方があり、未治療のまま経過した場合の死亡率は90%を越えています。発見からすでに1世紀近くが経っていますが、cTTPの治療選択肢は限られ、この疾患を適応症とする治療薬もありませんでした1,2,5。
タケダのRare Gastrointestinal and Inflammation Therapeutic Unitのグローバルプログラムリーダーであるオビ・ウメ医学博士は、cTTP治療というアンメットニーズに取り組むチームを率いています。
「希少疾患は患者数が少ないことから、関心を向けられないことがあります。だからといって、こうした患者さんたちが治療を受けられなくてもよいわけではありません」と、ウメは述べています。「私たちは240年以上にわたり、患者さんが最大限に豊かな暮らしを送れるようにすることを目標に、絶えずイノベーションに取り組んできました。その取り組みに、患者さんの数は関係ありません」
2012年1月にリーシーマ・ウィンさんが疾患により亡くなって間もなく、家族はTTP患者さんを支援するRee Wynn財団を設立しました。
患者さんの声に背中を押されて
「私たちは大きなショックを受けました」と、ジェイムスさんは振り返ります。「妹が亡くなってすぐ、母は私に死亡告示を出すよう頼みました。その際に、弔意のために花やギフトを送ってくる代わりに、TTP財団への寄付を呼びかけるよう告示してほしいと、私に依頼しました。ところが、この疾患はあまりに希少なため、TTP財団すらないということを、その時初めて、私たちは知ったのです」
12年後、すべてがボランティアで賄われるこの財団は、治療が前進しつつあるというニュースに沸きました。
「患者さんの声が、私たちの原動力になっています」と、ジェイムスさんは言います。「しかし、その声は、長い間ないも同然でした。患者さんにとっては、科学者や医療関係者が、彼らの声に耳を傾け、より豊かな暮らしを実現しようとしているという事実は、たいへん勇気付けられるものです」
新しい視点
エイミーさんは、cTTP患者さんが待ち望んでいた、医療の前進の恩恵を受けることができました。現在、医師の指導下で症状の管理を続けています。そして、患者さんケアに対する新しい視点を持って職場に復帰することもできました。自身の経験を生かして、担当患者さんだけでなく、診断や治療を模索する他の患者さんもサポートしています。
「患者さんの声に、常に耳を傾けるようにしてきました。患者さんの気持ちは、患者さん自身が一番よく分かっているのですから」と、エイミーさんは言います。「しかし、この試練を経験した今、私も患者さんが感じる恐れや不安を理解できます。私の経験が、誰か一人でも役に立つのなら、この経験にも価値があったのでしょう。 患者さんのニーズを理解し、そのニーズを満たそうとする努力を、私は決してやめません。そのことを患者さんに知ってほしいと思っています」
- Van Dorland H et al. Haematologica. 2019;104:2107-16
- Nunez Zuno JA and Khaddour K. Thrombotic Thrombocytopenic Purpura Evaluation and Management. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470585/ Accessed August 2024
- Chiasakul T and Cuker A. Am Soc Hematol. 2018;2018(1):530–538
- Kremer Hovinga JA and George JN. Hereditary Thrombotic Thrombocytopenic Purpura. N Engl J Med. 2019;381(17):1653-1662.
- Zheng XL et al. J Thromb Haemost. 2020;18(10):2486-95