8年ほど前、地元の総合病院でステージ4の肺がんと診断されました。診断の3カ月ほど前に健康診断を受けたばかりだったので驚きました。すぐに治療に関する情報を探し始めましたが、どこで有益な情報が得られるのかがわからず、インターネットでは営利目的の情報も多く、必要な情報になかなか辿り着けない状態でした。
自覚症状がないまま、抗がん剤の治療が始まりました。やがて、その薬剤に耐性がついたことがわかり、新しい治療法を検討することになりました。そこで主治医が提案してくれたのは、別の抗がん剤でした。
抗がん剤の苦しさはすでに経験し、その苦しさに見合った効果が実感できていなかったことから、迷いが生じていました。セカンドオピニオンをもらうために東京の病院を訪ね、そこで初めて治験の存在を知りました。担当の先生から「開発中のおくすりがあります。治験を受けてみる道もありますよ」と教えてもらったのです。
主治医に治験について相談すると、詳しく調べてくれました。肺がん患者を対象にした治験が、2カ月後に始まり、実施できる病院が日本で9カ所しかないことを知りました。そしてある日、主治医から具体的に治験への参加を打診されました。「関西の病院まで通える?」と聞かれた時には、もう「どこへでも行きます」という気持ちになっていました。
治験に参加する条件は、想像以上に細かく定められていました。決められた条件を満たす人でなければ、治験に参加できないのだとわかりました。私は条件があっていたので、参加することを決め、地元から月に一度のペースで関西の病院に通うことになりました。
治験への参加を決めた私を家族や友人は「頑張って行っておいで」と送り出してくれました。未知の可能性に向かう周りの期待は大きく、私自身も「納得のいく選択をしたんだし頑張らなきゃ」という気持ちでした。
関西の病院までは片道3時間の道のりでしたが、ついでに美味しいパンを買って帰るという新しい楽しみを見つけました。私は硬めのパンが大好きで、病院へ向かう途中においしいお店があるんです。月に一度だけ関西に遊びに行くような気持ちで通いました。
治験を担当してくれた先生は肺がんのスペシャリストで、一生懸命に診てくださっていると感じました。女性の先生で、とても話しやすかったです。治験コーディネーターもいつも同じ方で、何でも相談できる関係になりました。病気や治療のことだけでなく、世間話を交えて親身に接していただいたので、いつも会えるのを楽しみにしていたのを覚えています。関係者の方々のサポートには、とても感謝しています。
わからないことだらけと思っていた治験のプロセスも、普通の患者として通院するのと大きな違いはありませんでした。どんなことでも質問できるリラックスした環境で、ピリピリした雰囲気は一切ありません。血液検査の本数は増えましたが、その分、細かなデータを共有してもらえたので、自分の状況がわかって安心できるようになりました。
以前は治験という言葉を聞いても、自分には関係のない世界だと思っていました。でも今は、条件さえ合えば治験に参加できるという選択肢があることを知っています。私はたまたまセカンドオピニオンで出会った先生の一言がきっかけで、自分が参加できた治験の存在を知りました。今後は、患者にとって治験がもっと身近になるといいなと思っています。プラセボのことも含めて、治験をもっとわかりやすく学べたり、患者が自分から治験の機会を探せたりするような環境が整うことが理想です。
治験に参加する方法も、インターネットを活用して近所の病院で検査を受け、拠点病院に行く回数が少なくて済む方法もあると聞いています。何事も、やってみなければわかりません。私は、治験という新薬の開発を通じて、効果の高い治療法が生み出されることを願っています。